解雇とは、使用者の一方的に行う労働契約の解約です。
労働契約の終了には契約期間の満了、労使間の合意による解約(合意退職)、労働者側から一方的に行う解約(任意退職)、定年、労働者の死亡など様々なケースがあり、一般的に退職といわれています。
これに対して、使用者の一方的に行う労働契約の解約を「解雇」といいます。
つまり、「解雇」は労働者の意思に関係なく、会社が一方的に行う解約の意思表示となります
はじめに
国際的な金融危機・経営環境の大きな変化は、我が労働環境のあり方そのものを変えようとしています。その中で、現在、労働環境においても製造業を中心に、派遣労働者や期間従業員などの非正規雇用者を削減する動きが広がっています。世界的な景気の悪化・金融危機などの影響を受け、今後も正社員を含めて人員の削減はさけられない情勢となってきました。
この厳しい環境の中で、経営者、人事担当はリストラなどの労務管理をしていくことになります。
しかし労働基準法だけで、労務管理ができるわけではありません。また使用者の意思のみで一方的に労務管理の問題がすべて解決できるわけでもありません。
労働条件の曖昧な解釈による不当解雇・労使紛争やトラブルを事前に防止する為にも、法令を遵守した労働条件を具体的に就業規則に定めるなど、雇用実態とそれに対応した労働条件の整備やリスク管理を想定するなどの広い視野と事前準備が必要といえるでしょう。
解雇とは
解雇とは
労働契約の終了には契約期間の満了、労使間の合意による解約(合意退職)、労働者側から一方的に行う解約(任意退職)、定年、労働者の死亡など様々なケースがあり、一般的に退職といわれています。これに対して、使用者の一方的に行う労働契約の解約を「解雇」といいます。
つまり、「解雇」は労働者の意思に関係なく、会社が一方的に行う解約の意思表示となります。
解雇と退職について
解雇か退職かを判断する基準として、労働者から退職願が出された場合は、「労働者側の行う解約」となり任意退職となります。また、無断で他の企業に就職したときも労働関係は終了したものとみなされ、事実上の退職とみられます。
ただし、退職願が出されていたとしても、それが本人の意思ではないもの、使用者から無理やり書かされたものに関しては、無効もしくは解雇と認められる場合があります。
有期労働契約の場合、基本的には使用者も労働者も一方的に労働契約を解約することはできないと考えられています。通常であれば、期間を定めた労働契約を結び、契約期間が満了した時点で、労働契約は終了となりますので、解雇の問題は生じないと考えられます。ただし、短期の契約を反復更新して、事実上期間の定めのない契約をしているのと同等である場合において、あらかじめ期間満了時に更新しない旨を伝えずに、突然、契約期間満了による労働契約の終了とされても、それは実質的には解雇とされることになります。
解雇と定年について
定年とは、就業規則等で定めた所定の年齢に達した場合に労働契約が自動的に終了することいいます。定年により退職することを「定年退職」といいます。 この定年退職は、有期労働契約と異なり、定年までは使用者も労働者もいつでも解約できる関係にあり、期間の定めのない契約となります。
ですから、定年による労働契約の終了は長期による労働期間の契約満了とは異なり、解雇ではないということになります。また、最近定年後の継続雇用制度を実施する企業も増えていますが、この場合も実質的には労働関係が継続していることになりますので、解雇として取り扱わなくてもよいことになります。
解雇の種類
解雇には、大きく分けると、1)普通解雇、2)懲戒解雇、3)整理解雇の3つの種類があります。
1)普通解雇
普通解雇とは、労働契約が継続できない状態が生じたときに、労働者を解雇することです。
具体的には、欠勤や遅刻が相当多く、業務に支障をきたしている、心身の障害によって業務に耐えられないなど、就業規則の規定によって解雇するものとなります。使用者は、期間の定めのない契約の場合、いつでも解雇することができますが、法律上禁止、制限されていることや正当な理由がない場合は権利の乱用として無効とされる場合がありますので、就業規則に退職や解雇について定めておく必要があります。
2)懲戒解雇
労働者の債務不履行に対して行われる普通解雇に対し、懲戒解雇は企業秩序を著しく乱した労働者に対して行う制裁罰として行われる処分で、解雇の中でも最も重いものとなります。企業秩序の正常化が期待できない場合のみ適用されることになります。
懲戒解雇は「制裁の種類及び程度に関する事項」を就業規則に記載し、これに則って懲戒解雇を行うことになり、この基準を厳格に適用しなければなりません。
3)整理解雇
整理解雇は、普通解雇、懲戒解雇と異なり、労働者側に責任があるわけではなく、会社の経営不振などにより、人員整理を目的に行うものとされています。ただし整理解雇を行うには、いくつかの要件を満たす場合に限り、行うことができると考えられています
- 客観的に見て、人員整理を行わなければならないほど経営上の必要性があるか。
例えば人員を削らなければ倒産、もしくは閉鎖寸前という状態 - 整理解雇を実施する前に、解雇を回避するための最大限の努力を行ったか。
残業禁止、賃金カット、賞与カット、配置転換、出向、早期退職、希望退職の募集、一時帰休の実施など - 整理解雇の対象者を判断する基準が合理的であるか
- 会社説明会、個人面談などを通し、労使間で十分に協議した上で、労働者に対し、納得してもらえるよう努力していたか
少なくとも以上の項目を満たしていることが、整理解雇を行うことが妥当であるかの判断基準になります。
解雇権の濫用について
解雇について就業規則に明記してありますか?
- 解雇に関する基本的ル-ルの明記
- 有期労働契約の期間の見直し
- 裁量労働制の要件の見直し
解雇にはいくつかのルールがあります。解雇は労働者にとって生活に及ぼす影響はとても大きなものとなるので、不当解雇、解雇トラブルを未然に防ぐ為のルールとなります。
そもそも解雇とは
使用者によって不合理な解雇が行われることを制限している解雇権濫用の法理が法律に明記されています。
労働契約法第16条において、解雇について以下のように規定されています。
労働契約法第16条
(解 雇)「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合はその権利を濫用したものとして無効とする。」
これは、労働基準法に解雇のルールを明記することによって、解雇に際して発生するトラブルを防止し、その解決を図ることを目的としたものになります。
証明書の交付
使用者は労働者が解雇の理由について証明書を請求するのであれば、これを交付しなければなりません。
労働基準法第22条1項 (退職時等の証明)
「労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その業務における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は遅滞なくこれを交付しなければならない」
また、これが解雇予告期間であっても、解雇理由の証明書を交付しなければならない旨が労働基準法第22条第2項で定められています。
解雇権の濫用にならないために
使用者は労働契約を締結する際に、労働条件を書面の交付により明示しなければなりませんが、その絶対的明示事項に「退職に関する事項(解雇の事由も含む)」を記載しなければなりません。また10人以上の労働者を使用する事業場の使用者は、就業規則を作成し、行政官庁に届けなければなりませんが、その就業規則の絶対的必要記載事項に「退職に関する事項(解雇の事由も含む)」を記載しなければなりません。
したがって、使用者は労働者に対して、どのようなケースで解雇になるのかを説明する義務があり、明確にしておかなければなりません。
解雇の事由の種類
- 労働者の労務提供の不能、労働能力又は適格性の欠如・喪失によるもの
- 労働者の規律違反の行為によるもの
- 経営上の必要性によるもの
解雇が禁止されているケース
解雇を行う前に確認を
労働者が次の状態にあるときは、解雇することができません。
- 【業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間】
この休業は、原則全部休業の期間をいい、出勤しながら通院しているような一部休業には適用されません。
またこの30日間は、たとえ1日ないし2日の軽度な負傷、疾病での休業であっても解雇制限は適用されます。 - 【産前産後の女性が労働基準法第65条の規程によって休業する期間及びその後30日間】
労働基準法第65条では、産前6週間(多胎妊娠においては14週間)以内に出産する予定の女性が請求した場合と産後8週間においては就労させてはならないと定めているため、この期間は解雇制限が適用されます。ただし、産前において労働者が請求せずに就労している場合は、解雇制限は適用されないことになっています。
解雇が禁止されるケース
そのほか、次の理由により解雇することが禁止されています。
- 解雇について労働者が女性であることを理由として差別すること、婚姻や妊娠、出産したことを理由として解雇すること
- 労働者が育児休業、介護休業を申し出たこと、取得したことを理由として解雇すること
- 労働者が労働組合に加入、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもって解雇すること
根拠条文 | 解雇が制限されるケース |
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労働基準法第3条 | 従業員の国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇 |
労働基準法第19条 | 従業員の業務上の負傷・疾病による休業期間とその後30日間 及び産前産後の休業の期間(産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内又は産後8週間以内の女性が休業する期間)とその後30日間の解雇 |
労働基準法第104条,安全衛生法第97条 | 従業員が労働基準監督機関に申告したことを理由とする解雇 |
男女雇用機会均等法第8条、第13条2項、第14条2項 | 従業員が女性であること、 女性従業員が結婚、妊娠、出産し、又は産前産後の休業をしたことを理由とする解雇、 労働者の募集、採用、配置、昇進、教育訓練、福利厚生、定年、退職及び解雇にかかる男女の均等な機会及び待遇の確保にかかる労使の紛争について都道府県労働局長に援助を求めたこと 又は労働者の配置、昇進、教育訓練、福利厚生、定年、退職及び解雇にかかわる男女の均等な機会の確保にかかわる紛争について都道府県労働局長に調停の申請をしたことを理由とする解雇 |
育児・介護休業法第10条及び第16条 | 従業員が育児休業及び介護休業の申し出をしたこと、 又は育児休業及び介護休業をしたことを理由とする解雇 |
労働組合法第7条 | 従業員が労働組合の組合員であること、 労働組合に加入し、又は労働組合を結成しようとしたこと、 労働組合の正当な行為をしたこと等を理由とする解雇 |
解雇の手続きについて
解雇は、原則として30日前までに予告が必要です
原則として、使用者は労働者を即時解雇することができません。労働者を解雇する場合は少なくとも30日前にその予告をしなければならないのです。
ただし、30日前の解雇予告に変えて、平均賃金の30日分以上の平均賃金を支払えば、即時解雇することができます。これを「解雇予告手当」といいます。
この解雇予告手当は、支払った日数分、予告日数を短縮することができます。例えば20日後に解雇したい場合には、10日分の解雇予告手当を支払えばよいこととなります。
労働基準法第20条 (解雇の予告)
「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
2 前項の予告の日数は、1日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
3 前条第2項の規定は、第1項但書の場合にこれを準用する。」
例:11月10日に「11月30日付けで解雇する」とした場合
解雇予告から30日以上の余裕を持たせるには早くても12月10日に解雇しなくてはなりません。実際の解雇はその日より10日早いので、会社は10日分の解雇予告手当を支払う必要があります。(この場合は解雇予告手当=平均賃金×10日分)
解雇予告の例外について
解雇予告は誰にでも適用されるというわけではありません。次の労働者については、解雇予告は必要なく即時に解雇することができることとなっています。
- 日々雇い入れられる者(引き続き1ヶ月を超えた場合は除く)
- 2カ月以内の期間を定めて使用される者(期間延長した場合を除く)
- 季節的業務に4カ月以上の期間を定めて使用される者(期間延長した場合を除く)
- 試みの使用期間中の者(14日を超えた場合を除く)
また、以下の場合は、所轄労働基準監督署長の認定を受けることにより、解雇予告または解雇予告手当が不要となります。
- 天災事変の場合(労働基準監督署の認定要。)
- 労働者の責に帰すべき事由がある場合(労働基準監督署の認定要。)
具体的には震災に伴う工場の倒壊により事業の継続が困難であったり、社内で盗取、横領、傷害の刑法犯、これに類する行為を行った場合や、職場の規律を著しく乱し他の労働者に悪影響を及ぼす場合、雇い入れの際における重大な経歴の詐称・・・などについては、解雇予告の必要はありません。
ただし、所轄労働基準監督所で「解雇予告除外認定」を受ける必要があります。
解雇時の社会保険の取扱い
雇用保険の取扱い
雇用保険の被保険者が解雇された場合、職業安定所で求職の申込みの手続きをし、失業の認定を受けた場合、7日間の待期期間後に基本手当が支給されることになります。
解雇された労働者(懲戒解雇を除く)は自己の都合によって離職した一般受給資格者と異なり、会社都合などにより離職を余儀なくされた者として特定受給資格者となります。年齢、雇用保険の被保険者加入年数によって、基本手当の給付日数が異なりますが、一般受給資格者に比べて、手厚い給付日数となることがあります。最高で330日分の基本手当が支給されることになります。
解雇の効力等について争いがある場合は、資格喪失の確認を行って、基本手当が支給されることになりますが、解雇が不当とされた場合は、資格喪失の確認処理を取り消すことになります。この場合に支給された基本手当は全額返還することになります。
社会保険(健康保険・厚生年金)の取扱い
社会保険の被保険者が解雇された場合、資格喪失の手続きを行い、その翌日に被保険者資格を喪失することになります。
解雇の効力等について争いがある場合は、資格喪失の手続きを行うことになります。解雇が無効とされた場合には、遡って資格喪失の確認処理を取り消すことになります。この間に病院等にかかった場合は、その診療に要した費用を支給することとなり、保険料も徴収することになります。
逆に、解雇が遡って有効となり、保険給付が行われた場合は被保険者から返還させることとなり、保険料は還付手続きを行うこととされています。