解雇による各規定の扱い
休職時の扱い
休職満了時に復職できない場合は、解雇になるのでしょうか。退職になるのでしょうか。
業務によらない負傷又は疾病による休職をしていた場合、会社で定める「休職期間が満了するまでにその負傷、疾病が治癒しない場合は退職とする」という定めがよくあります。これが、解雇になるのか、解雇にならないのかは、個々の事例によっても異なります。労働協約や就業規則などと照らし合わせて、実質的に判断されることになります。
年次有給休暇の扱い
解雇となった場合、年次有給休暇の扱いはどうなるのでしょうか。
解雇となったら、労働契約が解約されますので、年次有給休暇を請求することはできません。即時解雇時は、解雇とともに、年次有給休暇の権利が消滅します。
ただし、解雇予告期間中であれば、労働関係が継続している状態であるので、年次有給休暇を請求することができます。
使用者は労働者に請求された年次有給休暇に対して、事業の運営に支障をきたす場合には変更することが認められています。これを時季変更権といいますが、変更する時期が解雇予告日を超えて行うことはできません。
試用期間中の解雇
本採用拒否とは (新規採用社員が経歴詐欺をしていた場合など)
試用期間中の労働契約は、解約権保留つき労働契約であって「留保解約権に基づく解雇は通常の解雇よりも広い範囲で解雇の自由が認められるべき」とされています。 (三菱樹脂事件 最高裁判決 昭和48年)
そこで、会社としては経歴詐欺、業務遂行能力不足、著しい勤怠の不良に該当する社員を本採用拒否する場合は、本採用取り消しを行います。
この場合であっても、勤務開始から14日を超えた場合は、解雇予告手続きを行う必要があります。
もし本採用拒否の規定を当別に規定していなくても、解雇に関する規定の解雇事由により解雇することになります。
規定サンプル
(採用取消事由)
第○条 試用期間中の従業員が次の各号のいずれかに該当し、従業員として不適当である認めるときは、会社は、採用を取り消す。
(1)遅刻及び早退並びに欠勤が多いなど出勤状況が悪いとき
(2)上司の指示に従わない、同僚との協調性、やる気がない等、勤務態度が悪いとき
(3)必要な教育は施したが会社が求める能力に足りず、もしくは改善の見込みも薄い等、 能力が不足すると認められるとき
(4)職務上重要な経歴を偽っていたとき
(5)健康状態が通常の勤務を行えないほど悪いとき(精神の状態を含む。)
(6)その他上記に準じる、又は解雇事由に該当する場合
2 採用の日から14日を経過した者の採用取消しについては、第○条(解雇)の規定を準用する。
身元保証人の活用
身元保証人を活用しましょう
精神疾患や出勤せず連絡をとれない社員を解雇したい場合に、身元保証人と話すことも有効です。
規定サンプル
(身元保証)
第○条 身元保証人は2名とし、原則として、2名のうち1名は親権者又は親族人とする。
2 身元保証の期間は5年間とし、会社が特に必要と認めた場合、その身元保証の期間の更新を求めることがある。
身元保証人の活用
- 従業員の身元を保証する。
- 従業員が、損害を発生させたときに、損害を賠償してもらう。
- 従業員が社内で他の従業員と頻繁にトラブルを起こす場合や、精神疾患にかかった場合で従業員本人の今後の対応への話し合い。
- 従業員が無断欠勤したままで連絡がつかないとき、身元保証人と今後の対応について話し合う。
身元保証人の有効期間は?(身元保証人に関する法律)
身元保証人が、従業員の損害を賠償すると約束していれば、契約の日から3年間が有効となります。契約期間は最長5年間。10年間の身元保証を取りたい場合は、5年に保障期間を定め、さらに5年間更新する必要があります。
身元保証人の責任金額はどのくらい?
身元保証人の責任金額は、次の事項を総合判断して決定されます。
- 労働者の監督に関する使用者の過失の有無
- 身元保証に至った理由
- 身元保証人が保証するときした注意の程度
- 労働者の任務や身上の変化
- その他の事情・・・
新卒者の内定取り消し
新規学校卒業者の採用内定取消しについて
世界的な金融危機に伴う企業業績の悪化で、多数の新規学卒者の採用内定が取り消される事態が発生しています。
ですが、企業から既に採用内定通知を受け、入社誓約書までを提出している場合は、企業と労働者との間に、始期付解約権保留付労働契約が成立しており、企業が内定取消を安易に行なえるわけではありません。
企業側は、誓約書に記載した採用内定取消事由に該当するなどの合理的な理由がない限り、採用内定の取消はできません。会社は損害賠償を求められることもありますから、注意が必要です
採用内定取消しは、対象となる学生に大きな失望を与えるとともに、会社に対し不安を与える重大な問題です。内定を受けた学生はその企業を信頼し、他の企業を選択する権利を放棄したといえる。その意味で採用内定取消しをおこなった事業主の社会的責任は重大です。
なお、新規学卒者の内定期間にやむを得ず採用内定取消し又は撤回するときは、事前に公共職業安定所長又は学校長に対しその旨を通知することが必要です。(職業安定法施行規則第35条第2項第2号)
自宅待機(採用延長)
採用内定後、会社の都合により入社日を繰下げ(延期)自宅待機をさせるような場合には「労務提供の受領拒否」ないし、「労働義務の免除」になり労働基準法第26条の休業に該当することがあります。
その場合は会社はその期間中、平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わなければならないことがあります。
精神疾患等の対応
精神疾患等が心配される社員に対する対応
欠勤が多く、精神疾患等が心配される社員に対しては、以下の就業規則の規定サンプルのように、会社が医師の診断書の提出を義務づけられるようにしておきましょう。
規定サンプル
(指定医健診)
第○条 従業員が次の各号のいずれかに該当する場合、会社は従業員に対し、診断書の提出又は会社の指定する医師の診断を受けさせることがある。なお、これは業務上の必要性に基づくものであるため、従業員は正当な理由なくこれを拒むことはできない。
(1)傷病欠勤が7日を超える場合
(2)長期の傷病欠勤後出勤を開始しようとする場合
(3)傷病を理由にたびたび欠勤する場合
(4)傷病を理由に就業時間短縮又は休暇を希望する場合
(5)業務の能率、勤務態度等により、身体又は精神上の疾患に罹患していることが疑われる場合
(6)その他、会社が必要と認める場合
医師の診断書により、休職が必要とされる場合
(休職期間)
第○条 休職期間(会社が発令した日を起算日とする。)は次のとおりとする。 ただし、この休職は法定外の福利措置であるため、医師の診断書や、会社の指定した医師との面接により復職の可能性が少ないものと会社が判断した場合はその休職を認めず、又はその期間を短縮することがある。(勤務期間が1年未満の者を除く。)
(1)私傷病による休職
勤続1年以上3年未満 3ヵ月以内 勤続3年以上6年未満 6ヶ月以内 勤続6年以上 1年以内 2 休職期間は、原則として、勤続年数に通算しない。
3 休職期間中は、無給とする。
社員に休職をさせる際は、会社が正式に「休職を発令した日」とすると休職期間の算定が不明確にならず良いでしょう。
同一事由による休職を繰り返す場合の扱い
再度同一疾病又はそれに伴う別個の傷病であっても、一定期間内の再発があれば期間を通算させる場合は、次のように規定しましょう。
第○条(休職期間の通算)
同一事由による休職の中断期間が3ヵ月未満の場合は前後の休職期間を通算し、連続しているものとみなす。また、私傷病の休職にあっては症状再発の場合は、再発後の期間を休職期間に通算する。
休職期間中が満了しても復職できないとき
休職していた社員を職場に復帰させるときは、慎重な対応が必要です。まず主治医の診断書の提出してもらい、職務に完全に復帰できるか確認しなければなりません。また場合によっては、会社の指定した医師に再度、受診してもらうなどして、会社として、復職させるかどうかを判断することになります。
(復職・休職期間満了による自動退職)
第○条 休職中の従業員が復職を希望する場合には、所定の手続により会社に申し出なければならない。
2 休職事由が傷病等による場合は、休職期間満了時までに休職前に行っていた通常の業務をできる程度に回復したこと又は復職後ほどなく回復することが見込まれると会社が認めた場合に復職させることとする。また、この場合にあっては、会社は必要に応じて会社の指定する医師の診断及び診断書の提出を命じる場合がある。
3 休職期間が満了しても復職できないときは、原則として、休職満了の日をもって退職したものとする。
そして、会社が定めた休職期間内(例えば3ヶ月とか1年)にどうしても職場復帰できない場合は、休職満了の日をもって退職または解雇となります。
セクハラによる解雇
セクシュアルハラスメントによる解雇
平成19年4月の男女雇用機会均等法の施行により、職場におけるセクシュアルハラスメントについて必要な以下の措置を講ずることが、事業主の義務となりました。
以下に1.~9.までの事業主が講じるべき措置をあげていますが、特に2. においてはセクシュアルハラスメントを行った者に対し懲戒制裁を定め、周知しなければいけないとしています。
事業主が講じるべき措置
- セクシュアルハラスメントの内容・セクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針を明確化し、周知・啓発すること。
- 行為者については、厳格に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等に規定し、周知・啓発すること。
- 相談窓口をあらかじめ定めること。
- 窓口担当者は、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。また広く相談に対応すること。
- 相談の申出があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
- 事実確認ができた場合は、行為者及び被害者に対する措置をそれぞれ適切に行なうこと。
- 再発防止に向けた措置を講じること。
- 相談者・行為者等のプライバシ-を保護するために必要な措置を講じ、周知すること。
- 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益扱いを行なってはならない旨を定め、周知すること。
懲戒規定への記載例
(譴責)第○条 次の各号の一に該当するときは譴責とする。
1~5 略 6 会社内において、性的な言動により他人に不快な思いをさせたり、職場環境を悪くしたとき。 (出勤停止)第○条 次の各号の一に該当するときは、出勤停止とする。
1~5 略 6 会社内において、性的な関心を示したり、性的な行為をしかけたりして他の従業員の業務に支障を与えたとき。 (解雇)第○条 次の各号の一に該当するときは懲戒解雇とする。
1~5 6 職責を利用して交際を強要したり、性的な関係を強要したとき
措置義務違反に対する罰則
均等法第29条に基づき違反に対する是正指導が行なわれたにもかかわらず、応じない場合には、企業名公表の対象となります。(第30条) また各企業のセクシュアルハラスメント対策や均等取扱いに関する雇用管理について報告徴収する際に、事業主が拒否したり、虚偽の報告をした場合は過料(20万円以下)が課せられます。(第33条)